エピソード集 動脈性衝撃注射療法 昭和16(1941)年
国産レントゲン撮影装置を開発した中山恒明は、ドイツで開発されたヨード・ナトリウム造影剤をイヌに注入して撮影したところ、樹氷のような肺動脈映像は浮かび上がりましたが、イヌの心臓は止まってしまいました。そこで、様々な検討からヨード・ナトリウム造影剤に濃厚なブドウ糖溶液を添加することで安全に造影ができることを突き止めました。
さらに、濃厚なブドウ糖溶液を動脈注射することで動けなかった神経痛の患者に顕著な鎮痛効果があったことから、動脈性衝撃注射療法を発案しました。
中国出張中のホテルで四肢関節の激痛に襲われたとき、自らこの治療を実施し、関節痛が取れることを確認しました。
昭和19(1944)年には、恩師の瀬尾貞信教授が動脈性衝撃注射療法で「朝日賞」を受賞しました。
[付録] 発明発見のためには
「発明発見には『運』、『鈍』、『根』が必要であるといわれるが、私の場合も放射線学会からの宿題を引き受けたという『運』と、すでに当時行われていた肺動脈撮影法に対して、その結果だけを利巧に模倣するということだけでなく、その基礎からもう一度確かめていった私の『鈍』と、それをとにかく数年つづけて研究した『根』とによって、ここに動脈注射療法を完成することができ、ささやかながらも治療法に一つの進歩をもたらし得たのである」
『患者の顔医者の顔』中山恒明,コスモポリタン出版社,1959年